新・東京イラストJournal

イラストレーターさくらみの日常絵日誌

神さまにもらったアトリエ(本当の話)

今から15年ほど前、

御茶ノ水駅のすぐそばに、

アトリエを持っていた時期がある。

 

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御茶ノ水界隈は、私にとっては、

生まれてから8歳までを過ごした町で、

 

そのあと家は他区に引っ越したものの、

その後も小学校、中学校と、

その区域に、電車とバスを乗り継いで

通学していた。

 

小学生が、毎日、満員電車で通学するのは

簡単なことではなかったけれど、

私はなぜか、幼心にも絶対に、

この町を離れないと決めていた。

 

それだけに、おとなになっても思い入れが深く、

私にとってはたった一つの「ふるさと」だ。

 

ちょうど9.11テロ事件が起こった半年後の頃、

てんやわんやの中、ニューヨーク留学を

切り上げて帰ってきた私は、

空っぽで、孤独で、クタクタだった。

 

「ここではない、他のどこか」に憧れて、

ニューヨークまで行ったのに、

いろんな挫折や悲しみがかえって増して、

結局、東京に戻ってきたのだ。

 

そんな私がやり直せるなら、

歩くだけで柔らかい気持ちになれる、

子供の頃を過ごした、この懐かしい町

しかないと思っていた。

 

 

手持ちのお金は、留学で使い果たして

ほとんど無かったのだけど、

子供の頃からずっと遊び場だった、

地元の太田姫さま(太田姫稲荷神社)

にお参りして、

「こんな予算しかありませんが、

 明るくて、景色の良い場所で

 心を込めて、絵を描きたいのです。

 どうか私のために、小さなスペースを

 開けてください」とお願いした。

 

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(今でも行くたびキュンとする太田姫さま)

 

それまでに三回、足を運んでいた

不動産屋のおじさんは、

なぜか私のことをすごく気に入って

くださって、

「でも、このあたりでは、あなたの条件では、

 絶対に希望のものは出ませんよ」

と笑っておられた。

 

だから、お参りした翌日、

その物件が出たときは、

おじさんが一番ビックリしていた。

 

「さくらさん、こういう物件は

 私も40年やってて初めてですよ!」

 

そうでしょう、そうでしょう。

だって、神様の出物だもの。

それにしても

「こういうことって、本当にあるんだ…」

と私もビックリ。

 

そんな神様からいただいた空間に、

アトリエを構えたはいいけれど、

最初の一年は身も心も空っぽで、

とにかくたった一人、

もがきながら制作していたのを

覚えている。

 

窓からは贅沢にも、ニコライ堂

円屋根がよく見えて、心を慰めてくれた。

 

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(この写真ではちょうどビルのあたりで

木の陰に円屋根が)

 

とにかくその空間にいるだけで、

何かワクワクするものがあったのだ。

 

そして、それから一年後、

本好きの仲間たちに出会い、

あれよあれよと言う間に、

そのアトリエは

「仲間たちの寄り道コース」になっていった。

 

 

当時の状況を、過去のブログから↓

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(わ〜、この絵を見て思い出した!

 そういえば、チャイム、なかったわ)

 

私が上階にあるお手洗いまで

行って帰ってくると、

私の代わりにでっかいくまのプーさん

席に座って仕事をしているという、

ビックリ&大笑いのイタズラも…

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(プーさん、でかすぎるよ…笑)

 

そんなアトリエでも、

絵に集中できないときはすぐに町に出て、

いろんなカフェでノートを広げた。

 

御茶ノ水にも、ここ数年、

再開発の波が来て、今や

見上げるような高いビルや、オシャレな

飲食店がみるみる増えたが、

その頃よく通っていたお店は

ほとんどつぶれてしまった。

 

でも、あったんだよね、一軒。

残っていたんだ、懐かしいカフェが。

  

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あんまり大きなチェーンでもないし、

すぐつぶれちゃうかもと

心配していたんだけど、

この地区では、意外に長生き。

 

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中は少し改装されていた。

 

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この窓側の席に座っては、

夢をワクワクふくらませて、よく元気を

もらったものだっけ。

 

 「空間の記憶」と言うのかな、

店に入って席に座って、

一瞬でそのワクワク感を思い出した。

すごいなあ。

 

ちなみに、アトリエのほうは、

その後、いろいろな経緯を経て

5年後に手放した。

 

神様にいただいた空間で過ごした時間は、

やっぱり、甘いことだけじゃなく、

魂の勉強になるような経験もいろいろ

味あわせてくれた。

 

そういうことも含めての

後押しだったなんて、

神様の計画には、ほんと無駄がない。

ありがとうございます。

 

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御茶ノ水の風景は、もはや

こんな大規模工事中の場所ばかり。

 

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ん! ここは小学校のときから

変わってない?

 

 

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わー、坂の途中で椅子に座って、

私たちを見下ろしているおじさんの銅像

そのまんまだ!

 

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(佐藤運雄先生と台座にお名前が)

 

…と思ったら

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ああ、ここももうすぐ、無くなって

しまうみたい。

 

 さびしいな。

 

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